もはやこれまで

隠遁を願うアラフィフ会社員。中学校の卒業文集で将来の夢は”何もしないひと”と書いた。あれから35年、夢も画力も変わっていない。

権田地理B講義の実況中継 語学春秋社

 

 2022年から地理が高校で必修になるらしい。これまで長年にわたり世界史が必修であったために、高校で地理を学ばない人も多かった。ワシもそのうちの一人である。中学生の頃、割と地理が好きだったので授業がないのが残念であったが、独自で勉強して大学入試の社会科は地理選択で乗り切った。

 

 日本史、世界史、政治経済と比べて地理はマイナー科目である。現在もそうであろうと思う。歴史と地理と政治経済は互いに密に関連しているのでほんとは単体で学ぶのはおかしいと思っていたら、歴史総合と地理総合という科目ができるようである。

 

 地理は歴史と異なり、地名や特産品を丸暗記して終わりという、いわゆる暗記要素の大きい科目でなく、本当は極めて思考性が強い学科である。なぜその地域でその特産物がとれるのか、歴史的、宗教的、民族的、地形的、気候的な背景からの考察と推測が必要だ。地理では地の理(ことわり=法則、道理)を学ぶのだ。この肝部分をすっ飛ばして瑣末知識だけを丸覚えしても仕方がない。そもそも別に暗記などしなくてもこの時代、ネットを叩けば済むだけの話。

 

 こういう状況で社会科の中で人気イマイチで書籍も圧倒的に少ない。そんな中『地理B講義の実況中継』は革命的な本であった。18歳でこの本を読んだ時には目から鱗がぽろぽろ落ちた。地理講義なのに冒頭は古典文法の説明をしだすし、地図の所では三角関数が出てくる。今までの丸暗記詰め込みウルトラクイズみたいな学習は一体何だったんだろうと思った。

 

 どの参考書も知識の羅列がつらつら記載されている退屈で無味乾燥な書が多い中、地理とはいったい何なのか、地理の本質は何なのかを提示した本であると思う。従って試験への即効性はなくあまり役に立たない、読む意味ないという意見も一部であるが、これまでと異質であるが故に根強いファンが多い。ワシもその一人である。初版は確か1989年、引用されている統計データは古びても考え方は色褪せない。

 

 残念ながら著者はこの本が出版されてすぐに若くして40代で逝去された。そのため結果的には畢竟の大作になってしまったが、このようなある種の啓蒙書を書ける人材が居なくなるのは惜しいことだ。まだまだ読みたかった。ワシが読んだ地理の本でこれを超える物はまだ見た事がない。そのために未だにパラパラと読み直すことがある。随分と長い付き合いの一冊(上下あるんで二冊やけど)である。