タイトルは、のちほど

アラフィフの備忘録 妻(元美大生)失笑の手描きイラストを添えて

将棋の子 大崎善生(講談社文庫)

 藤井聡太七段のタイトル戦が続いている。恐るべき強さで人工知能が6億局面計算した際に浮上した最善手を数十分の長考の末に指したという。いつの時代でも天才は脚光を浴びる。確かに天才といえど人間であるが故の苦労はあるのだろう。しかし私には脚光を浴びずに消え去って行く埋もれた人々の人生の方が気になる。それは多くの凡人らと同じように自身が大した才に恵まれず、劣等感を持ちながら今まで生きて来たからだろう。

 

 この本はプロ棋士養成機関である奨励会でプロを目指すも叶わずに埋もれていった影の人々に焦点を当てたノンフィクションである。主人公の名を成田という。天才軍団である羽生世代の少し歳上の世代だ。一般人にとっては奨励会に入れる時点で有り得ないくらい凄い事。奨励会は神童の集まりであるらしい。学校もそこそこに天才少年が朝から晩まで一年中将棋の鍛錬に励む。神童同士がしのぎを削り、篩にかけられ年に4人しかプロになれないという恐るべき世界。努力だけではどうにもならず持って生まれた才能を露骨に見せつけられる空間。勝ち負けが明確にでる将棋で彼我の能力差を突き付けられる日常。勝負は非情である。

 

 主人公はプロに成れぬまま年齢制限を迎え強制的に退会する事になる。将棋のみに人生を捧げ、将棋のみに命をかけ、将棋以外は何も知らない夢ついえた人間が実社会に放り出されて社会の底辺にまで落ちて行く。一握りの天才の足元には多くの陽のあたらない人達の屍が山積しているのだ。

 

 光は影があるからこそ引き立つ。自分はこの世では引き立て役だと感じる故にこの物語の非情さに堪らなく惹かれるのだ。

(HPによると成田氏は現在指導棋士として活躍されているそうです。)

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王手