もはやこれまで

隠遁を願うアラフィフ会社員。中学校の卒業文集で将来の夢は”何もしないひと”と書いた。あれから35年、夢も画力も変わっていない。

カムイ伝 白土三平著 小学館叢書

 

 カムイ伝などの代表作で知られる漫画家白土三平さんが89歳で逝去された。ワシがこの有名なマンガに触れたのは高校の図書館で、読み始めると止まらずとても衝撃を受けたのを覚えている。

 

 士農工商穢多非人という階級制度があった江戸時代を舞台に被差別部落出身のカムイが忍びの世界を生き抜いていく物語。百姓の世界だけでなく忍者世界も掟や階級が幅を利かす社会で、底辺の身分は交換可能なボロ雑巾の様に扱われた。天才忍者であったカムイはその実力でもって組織を脱し、抜け忍として組織から手配されながら放浪する事になる。

 

 聞けばこのマンガは全共闘時代のバイブル書となっており、このマンガで唯物史観を学んだようだ。左翼思想の比較的強い土地柄である地元の公立高に置いてある理由が何となく分かった。とはいえ非常によくできたマンガで大学の教養講座の題材としても使われたりする。『カムイ伝講義: カムイ伝のむこうに広がる江戸時代を読み解く(田中優子著←法政大の前総長や)』

 

 当時毎月発行されるカムイ伝全集が楽しみで学校帰りに近くの本屋へ立ち寄って買い求め、繰り返し読んだのは懐かしい思い出である。今でもストーリーは大体覚えている。それから長きにわたりベスト漫画と言えばカムイ伝という時期が続いたのだ。(今はほかにも一杯あるぞ

 

 最後の締めくくりはハッピーエンドではないが、深く印象に残るものであった。次の文章で終わっている。多分あっていると思うので引用しよう。

 

『人間はそれぞれ異なった場所において命を得、人生の海へ合流する。その海はいつの時代においても荒れ狂い、凪ぐことを知らない』

 

 これから社会の大海に船出する自身の未来を予言している様な不思議な感覚であった。文言通り、その後のワシという船は順風満帆とは程遠く、荒れ狂いまくりの、ボロボロになりまくりの、満身創痍の状態でなんとか今に至る。でもワシだけでなく著者自身や漫画のキャラクターや他の人もみんな、似たような状況なんやろうな。みんな頑張って生きとるんやー。